小池博史さんにインタビュー
小池博史ブリッジプロジェクト&グロトフスキ研究所「N/KOSMOS - コスモス」小池博史さんにインタビュー
小池博史ブリッジプロジェクト&グロトフスキ研究所「N/KOSMOS - コスモス」40年以上にわたり独自の舞台芸術を追求している小池博史さんは、昨年、20世紀を代表する作家ゴンブローヴィッチの小説をポーランドで舞台化し、現地で大きな歓声を浴びました。今回、都民芸術フェスティバルではその作品の新バージョンを上演してくれます。迷宮的ともいわれるこの難解な物語を、どのように舞台化するのか。そして日本版の見どころなど、たっぷりとお伺いいたしました。
小池博史(こいけひろし)
茨城県日立市生まれ。一橋大学卒業。1982年〜2012年「パパ・タラフマラ」、2012年~「小池博史ブリッジプロジェクト-Odyssey」主宰。演劇・舞踊・美術・音楽などのジャンルを超えた作品群を18カ国で85作品を創作。42カ国にて公演。舞台芸術に関する著作も多い。各国アーティストとの作品制作やプロデュース作品の制作、世界各地からの演出依頼公演を行い、各地で数多くのワークショップを実施している。
──上演される演目をご紹介ください。
原作の「コスモス」はヴィトルド・ゴンブローヴィッチというポーランドの有名な作家の最後の小説。難解な話で、ポーランド人でさえ途中で諦めたという人が多いくらいです。ただ、この難解さは、ポーランドのおかれてきた地勢的問題などいろいろな意味で錯綜しています。その錯綜、文化的な混在、そういった不可思議な要素が大きく、迷宮に入っていくような混沌とした小説で、これを2時間の舞台にしました。初演はポーランドで行ったのですが、ポーランドの方も「コスモス」がこんな風になってびっくりされていたと思います。
この作品はグロトフスキ研究所という、世界的によく知られた舞台のオーガニゼーションとの国際共同制作です。グロトフスキは20世紀を代表する演出家でして、この研究所には面白い連中が集まってきているんです。音楽担当のヴァツワフ・ジンペルはポーランドのアルトクラリネット奏者で、ジャズを元にしながらエレクトロニック音楽をやっている、非常に有名で面白い人です。また、美術も見どころで山上渡(やまかみ わたる)というアーティストが今、舞台の床の木全部に描く地図的なマンダラを作っています。ほかにもさまざまな映像やカメラも使うので感覚的な刺激がある舞台だと思います。
──日本版「N/KOSMOS―コスモス」、上演のきっかけを教えてください。
「N/KOSMOS」の“N”はポーランド語の“nowy”からきています。新しいという意味ですね。僕自身、もともとポーランドの芸術が好きでした。小説、映画、舞台、美術デザイン、ポーランドのものは不思議な面白さがあり、以前もポーランド人の小説を舞台化したこともありますし、ポーランドで公演やワークショップも行ってきました。そこで上演した作品を、今度は日本にどう持ち帰り、纏めるか、最初から考えていたことでした。
──小池博史ブリッジプロジェクトとはどのような団体ですか?
このプロジェクトの前はパパ・タラフマラというカンパニーを30年間やっていて海外アーティストともかなり密な形で関わってきました。パパ・タラフマラ時代はどちらかというと僕自身の美意識を、全面に押し出していたのですが、東日本大震災をきっかけに、人と人あるいは文化と文化、国と国、民族と民族、時代と時代等、そんな“異なっていると思われているもの”を、新たな手法でいかにミックスし溶解させていくのか、それがとても大事じゃないかと思ったんですね。それで2012年にパパ・タラフマラを解散し、小池博史ブリッジプロジェクトを始めました。自分自身の歩みとして、いろいろな意味で何かを壊しながら再創造する、あるいはブリコラージュ化して、違った世界を見つけていくような手法を、もう40年以上やっています。それはつまり、長い苦難の旅でもあったなと感じてきました(笑)。それでカンパニー名に最近、「Odyssey」と付け加えたんですよ。
──どういった活動をされていますか?
例えば「完全版マハーバーラタ」というインドの大叙事詩を元にした作品を、アジアの多くの国々の人たちと9年間に渡って一緒に作っていったプロジェクトがありました。体の動きも音楽も、衣装もカルチャーも、全く別のものを持っている人たちと、さまざまな要素をミックスダウンして作品化することが目的でした。たくさんの要素を溶け合わせながら、作品として高いレベルで成立させることが、世界存続の可能性を探る上で、とても大事だと思っています。「調和」ですね。いかにして自分とは違ったものと調和できるかを意識して行っている。それがこのプロジェクトです。
──作品を作るときに一番大切にされていることは何ですか?
常に僕自身が重要視するのはリズムなんですよ。リズムというのは音的なリズムとは限りません。つまり、空間がどう変容するか、変容するリズム、身体のリズム、そして時間のリズム、これらのリズムが合わさることによって大きなダイナミックなリズムが作られていきます。リズムにはいつもこだわっています。それは、今回の「N/KOSMOS-コスモス」も同じです。
──音楽に舞踊、そして芸術。さまざまなジャンルが混ざり合った小池さんの舞台のスタイルはどういうきっかけで生まれたのでしょう?
最初からです。実はあんまり演劇というものが好きじゃないんですよ(笑)。そして、いわゆる舞踊もあまり好きじゃない。まあ舞踊は基本中の基本なのですが、この話は長くなるので割愛します。演劇は語るだけで成り立ってしまうものがかなり多く、舞踊は踊るだけ、身体はもっともっとたくさんの要素を持っているが、なぜ限定的なのか、これが最初から大きな疑問としてあったんです。まあ当時から考え方が狭過ぎると思ってました。
また、僕自身、中学3年の頃から建築家でなおかつ、ジャズ評論家になろうと思っていたんです。音楽と空間が大切だった。でも、大学に入る少し前にフェデリコ・フェリーニの映画に出会ったことで映画の道に進もうと思い、そのために社会を知りたいと大学では社会学を専攻しました。そこで、出会った友人に誘われて舞台を始めたのですが、当時からそんなふうでしたので演劇だけ、踊りだけ、という舞台ではなかったんです。また、僕自身がいろいろな格闘技もやってきているので、身体性を意識していました。さらには時間を、どのようにミックスダウンしていくのか、その中で得られる空間、作品を作りたいと感じたんです。それがたまたま舞台芸術と呼ばれるものではあるが、カテゴライズされやすい演劇や舞踊ではなかったということです。
また、感覚的な右脳と論理的な左脳という視点で考えると、いつも右脳で感じてもらえる作品を目指しています。近代以降はどうしても左脳社会になっていて、「これは何か」という論理優先的なもの、人に説明でき、なおかつ正解であることをほとんどの人が追い求めがち。僕の作品は、よくわからないとよく言われますが、その一方で3歳児でも楽しそうに観てくれる。人間が持っている感覚、その非常に深いところにある感覚をどう呼び起こすのか、それをとても大切なことだなと思いながらずっとやってきています。
──初めて小池さんの舞台を観る人が楽しむコツはありますか?
まず考えないで観てほしいです。観劇している間に、これは何だろうと考えだすと、まさしく頭の中が迷宮になってくる可能性が高い。終わってから、何だったんだろうと考えると、全然、感じ方が違ってくると思います。解釈する頭で見ないで、身を委ねて欲しいですね。
──最後にお客様に、メッセージをお願いします。
3月21日から「N/KOSMOS-コスモス」という作品を、ポーランドのグロトフスキ研究所のアーティストたちと一緒に公演いたします。非常に不思議で、面白く、格好いい作品だと思いますので、ぜひいらしてください。