野坂公夫さん・坂本信子さん
内田 香さん・清水フミヒトさんにインタビュー
野坂公夫さん・坂本信子さん
内田 香さん・清水フミヒトさんにインタビュー
今年の都民芸術フェスティバル、現代舞踊公演は「CIRCLE 〜すべては循環のなかに〜」というタイトルで2日にわたって公演が開かれます。水をテーマに3つのグループが表現する「循環」とはいったいどんなものなのでしょう。野坂公夫さん、坂本信子さん、清水フミヒトさん、内田 香さんにお話をうかがい、公演の見どころ、そして現代舞踊の魅力に迫ります。
野坂公夫 坂本信子(のさか きみお さかもと のぶこ)
舞踊家。1977年にダンスワークスを設立。文化庁芸術家派遣在外研究員として海外でもダンスを学び、海外での公演も多い。自主公演活動を行うほか、文化庁主催公演、文化庁移動芸術祭、新国立劇場主催公演などを行っている。
内田 香(うちだ かおる)
舞踊家。金井芙三枝、大久保苑子、横山悦子に師事。文化庁芸術家派遣在外研究員としてパリに留学。2003年にダンスカンパニーRoussewaltzを設立し、国内外で精力的に公演を行っている。
清水フミヒト(しみず ふみひと)
舞踊家。尚美学園大学芸術情報学部舞台表現学科准教授。芸術家海外留学制度派遣研修員としてニューヨークで活動。国内、海外で幅広く活動し、文化庁委託事業などにも関わり、講師としてもさまざまな形で後進育成に携わる。
──今回は「CIRCLE 〜すべては循環のなかに〜」というタイトルが付けられています。どのような公演なのでしょう。
野坂 この公演は東日本大震災から着想を得たものです。命の源でありながら、死へも向かわせてしまうような、「水」がまずテーマになっていて、そこからいろいろな循環、サークルが始まる。それが波、波動になって、情動になり動いていく。それが人間の鼓動、心拍、そして生命につながっていく。さらには自然界の周期の循環にもなる。
震災から生まれたイメージを、3つのグループそれぞれがどのように作品化していくかというところが見どころです。作品を作る人それぞれに、振付、演出の考え方があって、清水さんは水そのものを、内田さんは潮の満ち引き。私たちは「いま ここに在ること」というテーマで演じます。今回も大きな震災が起こったばかりでどう言ったらよいのか、わかりません。作品を作る側としては辛い部分がありますが、しっかりとした踊りをお見せできればと思います。
──それぞれの演目ついて教えてください。清水フミヒトさんの「水廻(みずめぐる)〜Water circle〜」はどんな作品でしょう?
清水 私は震災からの復興について学び、考えることから始めました。これまで私は水の豊かさや可能性をテーマに舞踊作品を創作してきましたが、今回は、水の力により大切なものが失われてしまうという事実についても見直し、水の持つ悲しみの側面を直視するきっかけになりました。私たちがまだ経験したことのない未来には、喜びだけではなく、深い悲しみもあるかもしれない。そして、その中で今をどう生きていくのか。そんなことを今回、出演者自身と共に見つめ直す機会にもなっています。
創作活動の中で、自らを活かそう、互いを活かそうとしたときに生まれる「関わりの豊かさ」、そういうものを盛んにさせたいという想いが、今を生きる力につながると思っています。創作現場の中でダンサー、アーティストたちが互いに話し合い、作りあげていくという取り組み自体が、もしかしたら復興につながるのではないかとも思っています。
また今回、作品を作るにあたり、いろいろな人のことを思い出しました。人との廻り合わせで作品が生まれたのだと感じ、「水廻(みずめぐる)〜Water circle〜」という作品名に。ダンサーだけでなくエアリアルパフォーマー、バトントワラー、バス・バリトン歌手、ピアニストも参加しています。年齢は10歳から69歳までと幅広く、子どもたちが活き活きと踊る姿はとくに必見ですね。さまざまなジャンル、年代が関わること、多文化がともに関わり合うことが、とても大切だと今、現場で感じています。
──内田 香さんの「tide」はどのような作品でしょう?
内田 テーマは「ひとつの時が消えて、あたらしい時がまたはじまる」。簡単に言うと、明日への希望を込めた作品です。今回のタイトル「tide」という言葉は潮汐、海の上下を意味しています。月の引力によって海水が上下するということですが、私はそれをもうちょっと神秘的に捉えて、海水の上下から人の心情が左右されるというのが面白いと思っていて、この作品をやろうと思いました。いろいろなシーンを展開させ、最終的には次に進みたい、そんなイメージを持った作品です。
「tide」という言葉は他にも、世論、勢い、運といったイメージの言葉にもつながるので、今回の公演にも合うと思っています。また、今回は「時の流れ」にこだわりました。月の周期の新月、欠けていく月、半月、満月。海の朝、昼、夜の姿。そのシーンごとに月、海、人などがどう展開していくのかを楽しんでいただきたいです。月と海の周期、そして人の一生。長さはそれぞれ違いますが、それらが関わり合って巡っている。神秘的な世界と、そこで現実を受け入れる自分たち、希望を持つ自分たちを展開していきたいです。
今回は、私のカンパニーで踊っている人に加え、元々カンパニーにいた人のお弟子さん、つまり孫弟子にあたる人たちも出てくれます。一番若い子は、大学生。踊りの世界から子育てやお仕事で一時離れていたけれど、また戻ってきてくれたメンバーも日々、一生懸命に身体を作って一緒に踊ってくれてます。
──野坂公夫さん、坂本信子さんの手がける「いま ここに在ること」はどういう作品でしょう?
野坂 年を重ねてきますと本当にごく普通のこと……今まで気がつかなかったこと、例えば木が揺れているというような何でもないことも、ものすごく重要なことのように思えてきます。それが本当に奇跡じゃないかと思えることがあるんですね。ここに今、自分がいるということ、それ自体が奇跡じゃないか、みんなと会えることが奇跡じゃないか。そんなことを常に思っているんですが、最近はそういう感覚を持ったときに何と出会っているかも大事だと感じています。例えば音楽。今回、私たちはハヴァシという人の音楽と出会ったんですが、私の感覚が、誰かの音楽と出会った時に自然と何が生まれてくるのか? それでこの作品が作られました。何かを表そうというのではなく、一体どういうものが生まれてくるか? そんな想いでいつも作品を作っています。
坂本 何かを表そういうのは我々のカンパニーのテーマにはないんです。うちの場合は、下は高校3年生から、上は60代前後の方たちと、幅広い年代のダンサーたちが参加しているんですけれども、若い子たちは上の人たちにパワーを、ベテランの人たちは自分たちの経験を若い世代へ、と、そこにも一つの循環、サークルができていくんですよね。それが作品として表現されて、客席の方まで伝わっていけばいいかなと思っています。
──ずばり、現代舞踊の魅力とは?
野坂 例えばクラシックバレエは、テクニックや振付が決まっていて、こういうことができなければバレエじゃないと定義から外れてしまう。つまり年齢も大事になってくる。コンテンポラリーダンス、現代舞踊というのは、皆さんがおっしゃったように、子どもからシニアまで、ずっと踊れるんですよ。そして、幅の広いことができる。振付によって、また表し方によって本当に幅広いダンスができる。それが一番の魅力です。
坂本 自由な発想で自分の世界観を語ることができる。それが現代舞踊、モダンダンスなのだと思いながらやってきました。
野坂 ずっとコンテンポラリーの自由さに惹かれてやってきました。観ている方にダンスを自分に投影してもらいたいですね。生の舞台を見て刺激を得ていただければと思っております。
清水 僕は、その人が出会った人や出来事を全て表現に活かすことができるのが、現代舞踊の魅力だと感じています。僕は遅くダンスを始めたのですが、バレエやジャズダンスも経験しました。また、師匠に「お前は踊りを始めるのが遅かったから舞踊家としては生きていけないぞ」と言われたので、一生懸命、自分の世界を作ろうとがんばりました。そんなふうに、ダンサー、一人ずつに道があり、その通ってみた道がその人の踊りになっている。それをお互いに共有できることが現代舞踊の魅力だと思います。
また、今、電動車椅子サッカーの選手と交流しているんですが、その選手たちも今回の公演には来てくれるそうです。そういうつながり、関わり方が生まれてきているということがすごくうれしいですし、「自身の好き」から交流が始まり、そこからまた新たな文化が生まれる、今回はそんなフェスティバルになるといいなと思っています。
内田 バレエも、ヒップホップもジャズダンスやタップダンスもスゴい大好きなんですけれども、私が踊りたいと思うもの、ぴったりきたのが現代舞踊、コンテンポラリーダンスでした。とにかく自由で、何歳でも踊れて、何でもあり。もはや、ジャンルでもない気もします。それがもうたまらないんです。
普通に目で見てダンサーの息遣いを耳で聞いて、あとは肌で舞台の空間を感じる、ライブを味わっていただきたいなと思っています。良いことがあった人、辛かった人……皆さんに何かがじわりと刺さったらいいなと思っています。
──最後にお客様に、メッセージをお願いします。
「CIRCLE 〜すべては循環のなかに〜」。ご来場、お待ちしています。