劇団俳優座の皆さんにインタビュー

劇団俳優座公演No.352『対話』 ジャック・マニングシリーズ2

セリフの応酬で緊張感が高まって、グイグイ引っ張っていく展開。

犯罪の加害者と被害者双方の関係者が同じ席について話し合うという、意外な設定。この、日本ではまだなじみのない「修復的司法」は、心を癒やすのではなく摩擦を減らす試みとして欧米で導入が広がっています。舞台と、それを取り囲む客席が一体となって中身の濃い時間を共有する、そんな演劇の醍醐味を劇団俳優座がお届けします。

※本作品には、一部性犯罪に言及する箇所があります。ご観劇の際は、ご留意のほどお願い申し上げます。

森 一(もり はじめ)

俳優、演出家。大阪府出身。1978年に劇団俳優座に入団。『対話』の演出を担当。

八柳 豪(やつやなぎ たけし)

俳優。東京都出身。2003年に劇団俳優座に入団。

山本順子(やまもと じゅんこ)

俳優。東京都出身。1984年に劇団俳優座に入団。

対話を重ねることによって関係の修復を目指す集まり。

──『対話』はどんな作品?

 2021年の『面と向かって』に続く、オーストラリアの人気劇作家であるデヴィッド・ウィリアムソン作「ジャック・マニング」シリーズの第2弾です。調停人ジャック・マニングの呼びかけに応じて、罪を犯して収監されている犯人の家族と被害者の家族が集まります。悲しみの中にいる被害者の家族は、生きるための何かをその悲しみの中から見つけられないだろうか。つらい思いをしている加害者の家族に、何か未来につながるものはないのか。ジャックが進行役を務めるこの集まりは、対話を重ねることによって関係の修復を目指す「修復的司法」と呼ばれるものです。

公的に認められた、刑事司法とは異なる仕組み。

──「修復的司法」とは?

 私もまだ学んでいる最中で、いくつかの説があるようなのですが、もともとはニュージーランドのマオリ族による紛争解決の方法だったそうです。当事者同士が仲介者の下で話し合いを重ね、初めのうちは言い争っていても、やがて互いに心静かになり、解決に至る道を見つけ出す。これにオーストラリアの司法が着目し、刑事司法とは異なる、コミュニティ内における関係修復のための方法として取り入れたという経緯があります。

オーストラリアでは調停人は公的に認められており、刑事司法とは別のしくみとして定着しているそうです。被害者と加害者の話し合いは住民会議と呼ばれ、扱うテーマはゴミの出し方のようなことから重い犯罪まで、いろいろなレベルがあります。特に青少年の犯罪には適しているのではないかということで、ヨーロッパに渡ってベルギーでも取り入れられるなど、欧米で広がりを見せています。

俳優と観客が中身の濃い時間を共有し、共に冒険する。

──演出面でお考えになっていることは?

 お客様が俳優の息づかいを感じながら、俳優もお客様も同じようにドラマの中にいる。お客様はシートに背中を預けて観るというよりも、身を乗り出して観るような、そんな芝居作りを目指しています。
舞台には、登場人物たちが座る椅子が丸く並べられ、さらにその周囲に客席が配置されます。話し合いの最初にジャックが、2時間で解決を目指すと言い、本当に2時間で結末を迎えます。ですから、俳優と観客が中身の濃い時間を共有し、同じ道を冒険するわけです。

こういう作品なので、若い人や演劇を観る機会があまりなかった方にも、ぜひ観ていただきたい。日本には、修復的司法はまだほとんど導入されていません。裁判で決着がついたあと、被害者と加害者の対話はほぼないのが現状です。しかし、対話によって相手に対する理解や共感がわずかでも生まれれば、少しは生きやすくなるのではないか。これからの日本の社会はどうなるのか、どうしたいのかを考える上で参考になると思います。
決して教育的なものを作ろうとは考えておらず、まずは面白く観ていただいた上で、修復的司法って何だろうと関心を持つ。そんな演劇の波及効果というものもあるのではないでしょうか。

喜びや悲しみや、何が出てくるか分からないという魅力。

──役について教えてください

八柳 私が演じるジャックは調停人という立場なので、あまり自己主張しません。しかし、思うところはもちろんあるので、被害者側に寄り添ったり、時には加害者側を助けたりしながら、目指す方向に持っていく役割を果たします。話し合いの参加者みんなに心の底から吐き出してもらって、それがぶつかり合うところから、何らかの理解や共感が生まれないか。生まれるとしたら、それはどんなものかということを、観客も含めたみんなで考える方向に持っていきたいと考えています。

山本 私は犯人の母親のコーラル役を演じます。彼女はとにかく被害者側に謝りたいので、住民会議の存在を知り、ジャックに開催を依頼します。しかし、単なる謝罪の気持ちだけではなく、彼女なりの事情や思惑を秘めています。コーラルはとてもつらい立場ですが、2時間の間に俳優とお客様が一緒になって乗り越えられると思えば、私も力が出ます。


──『対話』の見どころは?

八柳 演出の森さんを始め、何度も一緒にやってきたメンバーばかりなので、稽古はリラックスしていますが、厳しいところは厳しい。俳優は全員、一度舞台に上がったら出突っ張りです。セリフの応酬ですごく緊張感が高まって、でも緩めるところは緩めて。セリフの力でグイグイ引っ張っていく、そんな展開をお楽しみいただきたいですね。

山本 森さんの演出は厳しい面もありますが、喜びや悲しみや、何が出てくるか分からないびっくり箱のような魅力があります。

若い方のために、お求めやすいチケットもご用意。

──お客様へのメッセージをお願いします

 私の大好きな俳優座で、大好きな俳優たちと一緒に中身の濃い演劇を作っています。若い方のためにお求めやすいチケットもご用意しておりますので、劇団にお問い合わせいただけたら幸いです。ぜひこの俳優座の『対話』をご覧いただきたいと存じます。



劇団俳優座公演No.352『対話』 ジャック・マニングシリーズ2 公演情報はこちら

2023都民芸術フェスティバル公演情報

お問合せ
ページの先頭へ